#author("2018-11-22T20:50:27+09:00","","") [[ChemTHEATREについて:introduction]] #author("2018-11-22T20:51:49+09:00","","") *ChemTHEATREの紹介 [#w82f7a5b] 2016年度より,環境中の化学物質濃度に関する情報を整理し,有効に活用するためのプラットフォームの構築に着手しました。我々は,このプラットフォームを「ChemTHEATRE」(ケムシアター)と名付け,あらゆる化学物質のモニタリング情報を収録・閲覧できるデータベースを核として,収録情報を可視化および解析するツールを実装したウェブ上のプラットフォームの創出を目指しています。ChemTHEATREはChemicals in the THEATREの略で,収録情報をオープンデータとして公開するための「劇場」をイメージし,THEATREには「トレーサビリティーとレスポンシブルケアを確約した,扱いやすく発見的な電子アーカイブ」(Tractable and Heuristic E-Archive for Traceability and Responsible-care Engagement)の意味が込められています。まずは,https://chem-theatre.com/にアクセスしてみてください。 #ref(./chemtheatre_introduction.png,50%) ご存じの通り,既存の化学物質の環境中濃度に関する情報の多くは,学術論文あるいは公的機関の報告書として電子化されてはいますが,そのほとんどはPDFファイルやエクセルファイルとして保存されており,モデリングやリスク解析を行う上では決して使いやすい形式とはいえません。気候変動研究に比べて地球規模の化学汚染の予測が大きく遅れているのは,予測モデルの入力データや検証材料になり得るモニタリングデータが整備されていないことが一因だと考えられます。多額の研究費を投じて得られた貴重な研究成果が十二分に活用されていないのは大きな損失です。これらの貴重な情報を将来にわたって有効活用するためには,汎用性の高いデータベースの構築が必須の課題だと考え,ChemTHEATREのプロジェクトを開始しました。ChemTHEATREにデータを集積することで,化学物質のトレーサビリティが確保され,環境中での挙動・運命予測の実施が容易になります。このことは,条約等の化学物質管理政策の効果検証にも寄与すると考えられます。また,化学物質排出量や毒性情報等に関する外部のデータベースとの連携により高精度かつ透明性の高い化学物質の生態リスク評価が可能となります。その上,対象物質の類縁化合物や代謝物等の挙動予測が可能となれば,複合毒性をはじめとした未知のリスクの評価にも貢献することが期待できます。 昨今では,学術情報のオープン化に関する議論も進められており,ここから得られる最も大きな効果として,分野を超えてデータを共有することによる新たな知の創出が挙げられます。ChemTHEATREは将来的に予想を超えた化学反応を起こすための土台となるものです。また,情報の高度な可視化技術との連係によりモニタリング研究の社会への還元,とくに環境教育への寄与やオープンサイエンス化が期待できます。 2016年3月から本プロジェクトを実施し,直面した大きな問題点が3つあります。ChemTHEATREのモニタリング情報データベースでは,データの質を保証するために,試料や分析法に関するメタデータを併せて収録するようにしています。このメタデータのテーブルを作成するにあたり,分析法に関する用語の解釈が研究者によって異なること,すなわち語彙の統一がなされていないことが大きな障壁となりました。現在のところ,用語の定義を明示することで誤解が生じないようにしています。 2点目は,論文によって公開している情報量に大きな差があることです。個々の試料の採取地点や採取日に関する情報から,分析対象化合物ごとの検出下限値(あるいは定量下限値)などに至るまで,十分な情報が付表として公開されているものもあれば,そうでないものもあります。ChemTHEATREではメタデータ登録フォーマットを作成し,必須・非必須項目を設け,著者に可能な限りの情報提供をお願いしています。 もう1点は,データ提供者に登録を促すことが容易ではないということです。データベースの構想をお話しすると概ね好意的な反応をいただくのですが,現状では実際にデータを登録するには至らないケースが多いと感じます。データの登録はやや面倒な作業ではありますが,DOIの付与による論文の被引用率向上などChemTHEATREへの登録によるアドバンテージを実感できるシステムを目指します。また,我々を含め,当該分野の研究者がオープンデータ化のメリットに対する理解を深め,意識を変えていく必要があります。ライフサイエンスの分野では「シーケンスしたらデータベース登録」が当然になっているように,将来的に,「環境試料の化学物質濃度を測定したらChemTHEATREに登録」という流れが自然になることを思い描いています。 現在までに,データベースの枠組みが完成し,関連する研究者に広くデータ登録を呼びかけています。また,バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)のIntegbioデータベースカタログ(薬剤/化学物質のカテゴリ)に登録され,同センターのデータベース横断検索からも,ChemTHEATREの収録情報の検索が可能となっています。今後,親和性の高い外部のデータベースとの相互参照を進めていきます。 アップデートや関連するミーティング等,ChemTHEATREの最新情報は,SNSでも随時発信しています。改善要求などのご意見も是非お寄せください。 Facebook(https://www.facebook.com/ChemTHEATRE/)~ Twitter(https://twitter.com/Chem_THEATRE) なお,ChemTHEATRE構築に関する事業は,日本化学工業協会Long-range Research Initiative (LRI) の助成を受けて実施しています。 研究メンバー~ 仲山 慶(愛媛大学 沿岸環境科学研究センター)【研究代表者】~ 磯部友彦(国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター)~ 宇野誠一(鹿児島大学 水産学部)~ 大野暢晃(兵庫県立大学大学院 シミュレーション学研究科)~ 国末達也(愛媛大学 沿岸環境科学研究センター)~ 半藤逸樹(新潟大学 教育研究院自然科学系)~